小さな先輩と小旅行 (AKIBA賞応募)(完結)

ライトなラノベコンテスト用です。
『僕』と先輩のSF(少し不思議)な小旅行のお話です。

2013/11/24 完結しました。
読んでいただいた皆様ありがとうございました。

2014/03/27 AKIBA PC Hotline!賞を頂きました!

小さな先輩と小旅行 その4 猫耳

「いや、私はべつに、オタクというわけではないのだぞ? アニメや漫画やゲームは好きだし、コスプレにも興味があってヒラヒラフリフリした不思議衣装を着てみたいと思ったりするが、オタクではないのだぞ?」
「最近はそういう人のことをオタクって言うそうですよ」

 山手線。
 秋葉原に向かう電車の中、ワクワクして落ち着かないといった様子で先輩は話しかけてきた。
 
「オタクという言葉はいかにもマイナスなイメージじゃないか。サーフィンが趣味ですって言えば爽やかに聞こえるが、サーフィンオタクですと言ったら、アウトドアなのにインドアなイメージにならないかい?」
「うぅん、まぁ、なんとなくわかります」

 そんな会話をしているうちに、電車は秋葉原に到着した。
 僕と先輩は秋葉原駅のホームに降り立つ。

「おおー。きみ、ついに私たちは辿り着いたぞ。秋葉原! 秋葉原だよきみ! いやぁ、秋葉原の土地はやはり違うなぁ。この素肌に当たる空気もなんだか秋葉原という成分を含んでいるようだと思わないかい?」

 新幹線内で地続きがどうとか言っていた人間の台詞とは思えなかった。
 駅構内でこれとか、改札を出たらこの人は興奮のあまりショック死してしまうんじゃなかろうか。
 
「き、きみ! 見たまえ! 柱に液晶が埋め込まれているよ! なんということだ! しかも広告が映り変わった! すごくない!?」
「あの、初めてテレビを見た人みたいなリアクションやめてもらえますか?」

 落ち着かせようとする僕を余所に、先輩はテンション上げまくりで秋葉原を歩きまわる。

「…………」

 連れ回されている間、僕は少しだけ昨晩のことを考えていた。
 卒業するのが不安……か。
 あれだけしおらしい先輩は初めてだったので少しだけ心配していたのだが……。
 今日の様子を見る限りだと、杞憂だったかもしれない。
 秋葉原の有名なアニメショップや同人ショップを一通り回ったところで、先輩のテンションはかなり落ち着きを取り戻した。

「ふひー、いやはや、疲れたね」
「そりゃあれだけ興奮したら疲れるでしょう」
「少しお腹がすいたな。見たまえ、お昼の時間はとっくに過ぎているよ」

 差し出された先輩の腕時計を見ると、もうおやつの時間になっていた。

「遅いですけど、どこかでお昼ご飯食べましょうか」


「休憩処をお探しですかにゃ?」


 それは急に現れた。
 唐突に、何の前触れも無く。
 まるで僕と先輩の間に割って入るようなかたち。
 今の今まで気配すら感じなかった。
 本当に、突然そこに出現したかのようだった。
 彼女はニッコリと、猫のように微笑む。

「それでしたらワタシがとぉっても素敵で不敵で無敵な極楽メイドカフェにご案内いたしますにゃ~」

 こうして出会う。
 この秋葉原で。
 聖地であり魔窟である、この秋葉原という土地で。
 鬼でもなければ蛇でもない。
 猫耳の生えた不思議少女に、僕と先輩は出会ったのだ。

小さな先輩と小旅行 その3 不安

「なんということだ! きみ! ベッドが二つもあるじゃないか! 馬鹿なのか!? 死ぬのか!?」
「いや、馬鹿は先輩です。二人で泊まるんだから二つあるのは当然というか必然でしょう」
「ふざけるな! これじゃあえっちぃことができないじゃないか!」
「しなくて良いです」

 レストランで夕食後。
 僕と先輩は本日宿泊するホテルの一室に到着した。

「この甲斐性なしが! 実物を見ずともきみのアレがミジンコサイズだというのがよくわかるわ! 顕微鏡が必要だよきみ!」
「すみません、静かにしてもらえますか?」

 まぁ、なんというか、僕にも貞操観念というのがあるのだ。
 ……いや、違うかな。
 おそらく僕は、怖いのだろう。
 文字通り先輩に傷を付けてしまうのが、どうしようもなく怖いのだ。
 それが先輩の言うところの甲斐性なしというのなら、どう言い訳したところでその評価を認めざるを得ないだろう。

「明日に備えてさっさと寝ましょう。先輩、お先にお風呂入って下さい」
「わかった。途中から入ってきても良いのだぞ?」

 と、先輩は妖艶な笑みを浮かべる。
 セクシーではなかった。
 
「……気が向いたらそうします」
「はっ! そんな気、最初からないだろうが」

 と、先輩は服を脱ぎ捨て、僕に向かって思いっきり中指を立ててから浴室に入って行った。
 僕は紳士だから、と言い訳しつつ、散らかった先輩の服を回収する。
 うぅむ。
 下着を掴んだだけで身体が震えてしまう。
 まだ温かみのある縞々パンツは僕の心をグイグイと締め付ける。
 結局、僕はただのチキン野郎なのだ。
 気持ちを落ち着けるためホテルに備え付けれたテレビをボーっと眺めていると、先輩が浴室から出てきた。

「ふぃー、さっぱりしたよ」

 お風呂の温度でとろけてしまった感じの緩い表情で先輩はベッドに腰をかけた。
 長い髪の毛はバスタオルでぐるぐる巻きにされてまとまっていて、いつもの先輩とはなんだか雰囲気が違って見えた。
 ちなみにパジャマは着用済みである。
 先輩愛用のネコさんパジャマだ。

「きみも入ってきなよ。私のエキスがたっぷり入ったお風呂が用意済みだ」

 物凄く嫌な言い回しだったが、僕は気にしないふりをして浴室に向かった。
 先輩エキス風呂で汗を流してから部屋に戻ると、大の字になった先輩がベッドで寝息をたてていた。

「うわぁ」

 と思わず口にしてしまうくらいだらしなかった。
 まぁ、今日はよく歩きまわったし、あれほどハシャいだのだ。
 そりゃあ疲れただろう。
 思う存分熟睡して、明日への体力を回復してもらいたい。
 点けられたままだった電気を消して、僕もベッドに潜り込む。
 僕も結構疲れたのだ。

「…………」

 うとうとと、夢と現実の狭間を揺らぎだしたところで、僕のベッドに何者かが侵入してくる気配を感じた。

「……なんですか、先輩」

 目を開けずに僕は答える。

「一緒に寝ようよ」

 眠たそうな力無い声音が耳元に囁かれる。
 いつもの威厳も感じさせない。

「……変なことしないでくださいね」
「じゃあ、手」

 言って、先輩は僕の手をベッドの中から探り当て、マシュマロのように柔らかな掌を、優しく覆うように重ねた。
 そして、また小さくて今にも眠りそうな声音で、耳元に話しかける。


 私はね……卒業するのが嫌だよ。

 不安で仕方がない。

 卒業してしまったら、きみに会えなくなってしまうからね。

 知っているだろう? 私は人見知りなのだよ。

 きみと離れるというのが、私は怖いのだ。

 今回の旅行は、本当に嬉しい。

 卒業しなければ、こんな楽しい日がまだまだ送れると……いうのにな。

 ……卒業は……ほんとうに……いや……だな……。
 
 私はね……きみの……


 気がつくと、先輩は小さな寝息を立てていた。
 卒業……か。
 先輩は卒業する。
 僕と先輩は一つ違いだ。
 この四月で、先輩は大学生に、僕は高校三年になる。
 今回の小旅行は、大学生になる先輩へのプレゼントだ。

「……僕も先輩と離れるのは嫌ですよ」

 と、僕は心の中で呟いた。

小さな先輩と小旅行 その2 目的

 小さな手のひらが僕を縦横無尽に引っ張り回す。
 東京一泊二日の小旅行。
 二人きりの小旅行。
 一日目のスケジュールは山手線沿いに有名な街を練り歩く。
 渋谷から新宿、池袋を歩きまわり、最後に上野へ到着する頃には日が暮れていた。
 しかし、僕たちの住む田舎とは違い、この街には……東京には、未だに光があふれている。
 僕と先輩は線路の見えるレストランで食事中である。

「今日は実に楽しかったよ。こんなにハメを外したのは久しぶりだ」
「いや先輩、あれはいかにも外しすぎですよ。はしゃぎすぎでした」
「バカな、きみではあるまいし。そんな言うほど、私は興奮していないだろう」
「高層ビルの高さに驚き面白がって指差して飛び跳ねてたのは誰ですか」
「誰だよそいつは。みっともないなぁ。きみじゃないのかい?」
「次から次へとくる電車のラッシュに子供さながら興奮していたのは誰ですか」
「なんだいそいつは。いい歳して。きみじゃないのかい?」
「街に溢れかえる人の波に驚愕して『離れないように気をつけないと』と呪文のように繰り返していたのは誰ですか」
「子供かねそいつは。いくらなんでも怯えすぎだ。きみじゃないのかい?」
「全部先輩です」

 まぁまぁ、それはもう立派なお上りさんだった。
 僕と会話を進めつつ、先輩はステーキの肉を一口サイズに切り分けてゆく。
 非力な先輩の力で難なく分解されてゆくところを見ると、なかなか良い肉だというのが伺える。
 奮発した甲斐があるなぁ、と僕もステーキを切り刻む。

「そういえば、スカイツリーなんかには行かなくても良かったんですか?」
「私が高所恐怖症なのは知っているだろう?」

 言って、先輩はステーキを口に頬張る。
 よほど美味しかったのか表情がだらしなく緩んだ。
 個人的にはスカイツリーも見たかった……というか、高いところを怖がる先輩を見たかったのだが……高い肉はお気に召したようだし、まぁいいか。

「スカイツリーとか東京タワーとか、まぁ東京にはいくらでも観光地はあるし、今日堪能した副都心も私は十分に満足したよ。けれどね、私は明日が楽しみなのさ。なんといってもこの小旅行、明日が本命だからね」
「えぇ、そうですね。今日のはあくまでオマケです。明日のためのウォーミングアップでしかないですからね」

 そう、僕たちの小旅行には一つの目的地がある。
 
「欲しいものは大抵見つかるらしいね」

「多すぎて逆に見つからないという話も」

「様々な人が集まってくるそうだよ」

「抜け出せなくなる人もいるそうですね」

「現実とはかけ離れているとか」

「夢の中みたいだと聞きました」

「聖地と呼ばれているらしいね」

「魔窟と呼ぶ人もいるらしいですよ」

「鬼が出るかな?」

「蛇は出るかもしれないです」

 僕と先輩は明日、秋葉原に向かう。

しおり
一日目

--- 新幹線 ---

その1 不変

--- 東京観光 ---

その2 目的

--- ホテル ---

その3 不安


二日目

--- 秋葉原 ---

その4 猫耳


その5 相談


その6 案内

--- 秋葉原? ---

その7 価値


その8 代償


その9 好物


その10 遭逢


その11 甘苦


その12 遊戯


その13 原因


その14 敗者


その15 釣合


その16 沈思


その17 先輩


その18 出発
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