小さな瞳をクリクリとさせて、小さな両手を合わせながら、隣に座る小さな先輩は、猫のような小さい口を開ける。

「きみは大きなオッパイと小さなオッパイ、どちらが好きかね?」

 うわぁ、また何の脈絡も無くしょうもないことを聞いてきたなぁ……。
 僕の好みは……まぁ、大きなオッパイである。
 小さな胸ではカバーできない事柄も、大きな胸があれば難なく受け止めることができるだろう。
 大は小を兼ねるとも言うし、この意見はかなり多くの支持を集めるものと推測できる。

「…………」

 とはいえ、しかし、この不敵な笑みを浮かべて僕を覗き見る先輩には、そんなこと絶対に言えない。
 口を滑らしたら最後、その洗濯板で僕の頭はまるで大根おろしのようにジョリジョリとすりおろされてしまうだろう。

「おいきみ、今ひょっとしてとても失礼な想像をしなかったかい?」
「とんでもない」
「どうせ私の貧乳具合を馬鹿にした妄想を膨らませていたのだろう」
「何を言っているんですか。僕は学校でも有名な貧乳マニアですよ?」
「そんなことで有名になってどうするんだい。まぁいいや」

 と、先輩は深々と椅子に座りなおす。

「私は考えてみたのさ。きみはおそらく巨乳が好きなのだろうが、しかし貧乳と巨乳の間にはそこまで差は無いだろう、とね。だってそれらは結局同じオッパイだろう。同じ物体だ。サイズなんてのはおまけにすぎない。ついでのものだ。ただの誤差なのさ。どうだい、反論できるかな?」
「先輩、寝言も大概にしてくださいよ。巨乳と貧乳が一緒? 笑い話にもなりませんよそれは。巨乳と貧乳にはそれこそ天と地の差があります。いや、それらはもうそもそも比べられること自体が異常事態なんです。例えばですね、喫茶店で淹れるようなコーヒーと、コンビニで売っているような缶コーヒーを比べるなんて、それは喫茶店のマスターに対してあまりにも失礼ってもんじゃないですか」
「ほほう。きみは私の胸が缶コーヒーだと言いたいのかい」
「まさか。先輩のは何て言うか、潰された空き缶じゃないですかね。サイズ的に」
「車内じゃなければ君の首を絞めているところだよ」

 先輩は意外に時と場所をわきまえるのだ。
 ……まぁ、オッパイがどうとか聞いてくる時点であまりわきまえていないけど。

「オッパイはともかくね、私たちが向かっている東京も、私たちの住む田舎と地続きの場所……同じ日本という国で、言うほど地元と差は無いと思うのさ。だからね、東京が楽しみなのは分かるけれども、キラキラとした瞳でいつまでも旅行雑誌を読んでいるんじゃないよ」

 言って、先輩は僕から旅行雑誌を取り上げてしまった。
 うぅん……僕、そんな楽しそうに読んでたかなぁ……。

「先輩は楽しみじゃないんですか?」
「楽しみだよ。それは当然楽しみさ。卒業旅行としてきみがプレゼントしてくれた東京旅行だ。楽しみじゃないはずがないだろう」

 僕から取り上げた雑誌を丸めて先輩は続ける。

「しかしね、なんだかあまりにもお上りさんじゃないか。うわ~あいつ田舎から来たんだぜ~とか思われるのは嫌なのさ」

 先輩は体裁も気にする。
 
「きみね、あらかじめ忠告しておくけれど、新幹線から降りた瞬間に、都会スッゲー! とか叫ばないでくれよ?」

 そうして、僕と先輩を乗せた新幹線は衝撃の速度と驚愕の正確さで東京に到着した。
 ホームに降り立った先輩は小さな腕を思いっ切り広げる。

「都会スッゲー!」

 先輩はお約束も守る人なのだ。
 そんな先輩と僕の小旅行は、まだまだ始まったばかりである。