彼女はオッパイが大きかった。
まぁ、その他の付属品として、ふんわりとウェーブのかかった細くて長い髪。
そこから覗くのはピンと張りのある黒色の猫耳。
ドングリのようなクリクリとしたツリ目。
フリフリのメイドエプロンからは赤いリボンのついたしっぽが揺れる。
そんなところがあげられるが、とにかくオッパイが大きかった。
特筆すべき点はそこである。
彼女はオッパイが大きかったのだ。
「きみ、ちょっと彼女の胸元を見すぎではないかね?」
「そりゃあ先輩、普段見慣れていないものですかガフゥッ」
全部言い終える前に先輩のパンチが僕のみぞおちを貫いた。
地味に痛かったので僕は前のめりに体勢を崩す。
そんな僕の耳元に先輩は小さく話しかける。
「きみ、一体全体この不思議系少女は何者だい。というかどこから現れたんだい」
「さぁ……メイドカフェの呼び込みじゃないですか? ほら、コスプレ衣装の人たちがチラシを配っていたじゃないですか。あれの一種かと思いますが」
「あぁ、あれか。いかにもいやらしい感じのチラシだったから全然見ていなかったよ」
「いや、そんないやらしくはないと思いますが……。どうです? せっかくですし、メイドカフェ、行ってみますか?」
「し、しかし、きみ。これはひょっとして、ホイホイ着いて行ったらトイレでとんでもない目に合わされるとか、地下の施設に連れていかれて驚くべき低賃金で強制労働をさせられるとか、そういう展開に発展するパターンではないのかい?」
「漫画の読み過ぎです」
そんなやりとりを、猫耳の少女はニコニコと笑みを浮かべて眺めていた。
返事を待っているのだろうか。
彼女の無垢な笑みを見ると、トイレや地下に連れて行かれるとはとても思えないが……。
「どうします? 僕は行っても構いませんよ」
「きみはどうせオッパイが見たいだけだろうが」
「…………」
半分当たっていたので僕は黙る。
「うぅむ、メイドカフェか……きみが鼻の下を伸ばして他の女を舐めまわすように視姦する状態というのは私にはとても耐えられないのだが……」
酷い言われようだった。
「それに、酷くボッタクリな店もあると聞くじゃないか」
「そんな心配はしなくても大丈夫ですよ。手持ちには余裕ありますし、いくらなんでも数十万単位で請求されることは無いでしょう」
「そういうことでは無いのさ。見合っていない不当な価格で儲けを出そうとする考えが嫌なのだよ」
「まぁまぁ、多少はサービス料ってのもあるんでしょう。客のことをご主人様とかお嬢様なんて風に呼ぶお店はそう無いでしょう。ちょっと新鮮ですし、面白そうじゃないですか?」
「しかし私は実家だと普通にお嬢様と呼ばれるのだが」
そういえばそうだったな。
先輩は結構、いいところのお嬢様なのだ。
普段はそんな素振りを見せないし、先輩はあまりお金を持ち歩かないタイプなので忘れがちになる。
「先輩の実家に居るようなメイドさんとは全然違うと思いますよ。見てください、目の前のメイドを。先輩の実家に猫耳やしっぽを付けたメイドが居ますか? こんな不思議体験はこの秋葉原でしか味わえないですよ」
「ふむ、まぁ……確かにそうか。よし、ならば案内してもらうか」
言って、先輩は一歩下がった。
やりとりをしろ、ということらしい。
僕は猫耳の彼女に話しかける。
「えぇと、じゃあメイドカフェ、案内してもらっていい?」
そんな僕の言葉を聞いて、猫耳の少女はより一層、満面の笑みを浮かべる。
そしてメイドエプロンとその大きなオッパイを揺らし、左手を腰に当て、右手を顔に近付けてVサインという謎のキメポーズをとって楽しげに口を開く。
「はぁい! このネコマタメイドのネコミが喜んで二名様をご案内致しますにゃん!」
うわぁ、これが不思議ちゃんか。