小さな手のひらが僕を縦横無尽に引っ張り回す。
 東京一泊二日の小旅行。
 二人きりの小旅行。
 一日目のスケジュールは山手線沿いに有名な街を練り歩く。
 渋谷から新宿、池袋を歩きまわり、最後に上野へ到着する頃には日が暮れていた。
 しかし、僕たちの住む田舎とは違い、この街には……東京には、未だに光があふれている。
 僕と先輩は線路の見えるレストランで食事中である。

「今日は実に楽しかったよ。こんなにハメを外したのは久しぶりだ」
「いや先輩、あれはいかにも外しすぎですよ。はしゃぎすぎでした」
「バカな、きみではあるまいし。そんな言うほど、私は興奮していないだろう」
「高層ビルの高さに驚き面白がって指差して飛び跳ねてたのは誰ですか」
「誰だよそいつは。みっともないなぁ。きみじゃないのかい?」
「次から次へとくる電車のラッシュに子供さながら興奮していたのは誰ですか」
「なんだいそいつは。いい歳して。きみじゃないのかい?」
「街に溢れかえる人の波に驚愕して『離れないように気をつけないと』と呪文のように繰り返していたのは誰ですか」
「子供かねそいつは。いくらなんでも怯えすぎだ。きみじゃないのかい?」
「全部先輩です」

 まぁまぁ、それはもう立派なお上りさんだった。
 僕と会話を進めつつ、先輩はステーキの肉を一口サイズに切り分けてゆく。
 非力な先輩の力で難なく分解されてゆくところを見ると、なかなか良い肉だというのが伺える。
 奮発した甲斐があるなぁ、と僕もステーキを切り刻む。

「そういえば、スカイツリーなんかには行かなくても良かったんですか?」
「私が高所恐怖症なのは知っているだろう?」

 言って、先輩はステーキを口に頬張る。
 よほど美味しかったのか表情がだらしなく緩んだ。
 個人的にはスカイツリーも見たかった……というか、高いところを怖がる先輩を見たかったのだが……高い肉はお気に召したようだし、まぁいいか。

「スカイツリーとか東京タワーとか、まぁ東京にはいくらでも観光地はあるし、今日堪能した副都心も私は十分に満足したよ。けれどね、私は明日が楽しみなのさ。なんといってもこの小旅行、明日が本命だからね」
「えぇ、そうですね。今日のはあくまでオマケです。明日のためのウォーミングアップでしかないですからね」

 そう、僕たちの小旅行には一つの目的地がある。
 
「欲しいものは大抵見つかるらしいね」

「多すぎて逆に見つからないという話も」

「様々な人が集まってくるそうだよ」

「抜け出せなくなる人もいるそうですね」

「現実とはかけ離れているとか」

「夢の中みたいだと聞きました」

「聖地と呼ばれているらしいね」

「魔窟と呼ぶ人もいるらしいですよ」

「鬼が出るかな?」

「蛇は出るかもしれないです」

 僕と先輩は明日、秋葉原に向かう。