「いや、私はべつに、オタクというわけではないのだぞ? アニメや漫画やゲームは好きだし、コスプレにも興味があってヒラヒラフリフリした不思議衣装を着てみたいと思ったりするが、オタクではないのだぞ?」
「最近はそういう人のことをオタクって言うそうですよ」

 山手線。
 秋葉原に向かう電車の中、ワクワクして落ち着かないといった様子で先輩は話しかけてきた。
 
「オタクという言葉はいかにもマイナスなイメージじゃないか。サーフィンが趣味ですって言えば爽やかに聞こえるが、サーフィンオタクですと言ったら、アウトドアなのにインドアなイメージにならないかい?」
「うぅん、まぁ、なんとなくわかります」

 そんな会話をしているうちに、電車は秋葉原に到着した。
 僕と先輩は秋葉原駅のホームに降り立つ。

「おおー。きみ、ついに私たちは辿り着いたぞ。秋葉原! 秋葉原だよきみ! いやぁ、秋葉原の土地はやはり違うなぁ。この素肌に当たる空気もなんだか秋葉原という成分を含んでいるようだと思わないかい?」

 新幹線内で地続きがどうとか言っていた人間の台詞とは思えなかった。
 駅構内でこれとか、改札を出たらこの人は興奮のあまりショック死してしまうんじゃなかろうか。
 
「き、きみ! 見たまえ! 柱に液晶が埋め込まれているよ! なんということだ! しかも広告が映り変わった! すごくない!?」
「あの、初めてテレビを見た人みたいなリアクションやめてもらえますか?」

 落ち着かせようとする僕を余所に、先輩はテンション上げまくりで秋葉原を歩きまわる。

「…………」

 連れ回されている間、僕は少しだけ昨晩のことを考えていた。
 卒業するのが不安……か。
 あれだけしおらしい先輩は初めてだったので少しだけ心配していたのだが……。
 今日の様子を見る限りだと、杞憂だったかもしれない。
 秋葉原の有名なアニメショップや同人ショップを一通り回ったところで、先輩のテンションはかなり落ち着きを取り戻した。

「ふひー、いやはや、疲れたね」
「そりゃあれだけ興奮したら疲れるでしょう」
「少しお腹がすいたな。見たまえ、お昼の時間はとっくに過ぎているよ」

 差し出された先輩の腕時計を見ると、もうおやつの時間になっていた。

「遅いですけど、どこかでお昼ご飯食べましょうか」


「休憩処をお探しですかにゃ?」


 それは急に現れた。
 唐突に、何の前触れも無く。
 まるで僕と先輩の間に割って入るようなかたち。
 今の今まで気配すら感じなかった。
 本当に、突然そこに出現したかのようだった。
 彼女はニッコリと、猫のように微笑む。

「それでしたらワタシがとぉっても素敵で不敵で無敵な極楽メイドカフェにご案内いたしますにゃ~」

 こうして出会う。
 この秋葉原で。
 聖地であり魔窟である、この秋葉原という土地で。
 鬼でもなければ蛇でもない。
 猫耳の生えた不思議少女に、僕と先輩は出会ったのだ。